大相撲の髪事情を徹底解明!洗髪頻度から薄毛の対処法まで床山の神技
土俵上で激しくぶつかり合う力士たちの頭上で、黒々と艶やかに結い上げられた伝統の「髷(まげ)」。鬢付油(びんづけあぶら)独特の甘い香りが漂う大相撲の世界において、力士の髪は単なるヘアスタイルではなく、武士の気概と大相撲の様式美を象徴する極めて神聖な存在です。
しかし、激しい稽古で汗と砂にまみれる力士たちが日頃どのように髪を手入れし、どのくらいの頻度で洗っているのか、あるいは加齢や遺伝で髪が薄くなった際にどう対処しているのかは、一般にはあまり知られていません。専門職人「床山(とこやま)」の超絶技巧から、洗髪の驚くべき裏ワザ、十両以上の特権である大銀杏の条件まで、大相撲界の奥深い髪事情を徹底的に解き明かします。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:力士の洗髪は「週に1〜3回程度」が基本であり、固まった鬢付油を落とすためにコンディショナーを先に揉み込む独自の洗髪手順が存在する。
- 要点2:力士の髷を結う専属職人「床山」には特等から五等までの明確な階級制度があり、熟練の技で薄毛の力士でも巧みに髷を仕立て上げる。
- 要点3:大銀杏を結えるのは原則「十両以上の関取」であり、入門から必要な長さに伸ばすまでには約1年〜1年半の年月と日々の手入れが欠かせない。
【伝統の舞台裏】力士の髪はどう手入れされている?洗髪頻度とびんづけ油の真実
力士の象徴である髷を維持するためには、現代の一般的なヘアケアとはまったく異なる特殊な手入れが求められます。その中心にあるのが、独特の甘く芳しい香りを放つ「鬢付油」の存在です。
力士が使用する鬢付油は、ハゼノキの実から採れる木蝋(もくろう)やヒマシ油を主原料に、バニラや白檀(びゃくだん)に似た甘い香料を練り合わせた固形油です。東京の老舗油店「島田商店」などが手作業で製造しており、土俵際や巡業先で力士とすれ違った際に漂う香りは、大相撲ファンにとって風情を感じる代名詞となっています。この油は非常に粘度が高く、激しい頭突きや土俵転落の衝撃を受けても髷が容易に崩れない強固なキープ力を誇ります。
ここで多くの人が抱く疑問が、「あんなに油を塗り込んで毎日どうやって洗っているのか」という点です。大相撲関係者や元力士たちの証言によると、力士の髪の洗髪頻度は毎日ではなく「週に1回〜3回程度」が通例となっています。稽古後は水やお湯で土や汗を丁寧に洗い流し、タオルで拭き取った後に再び油を足して整えるのが基本サイクルです。
なぜ毎日シャンプーで洗い落とさないのかというと、髪の油分を完全に落としきると髪がサラサラになりすぎてしまい、床山が髷を結う際に髪が滑って固定できなくなるためです。適度に油が馴染んだ状態を保つことこそが、頑丈で美しい髷を作るための必須条件となっています。
週に数回の本格的な洗髪時には、強力なシャンプーをいきなり泡立てても油分に弾かれて泡立ちません。力士たちは「シャンプーの前にまずコンディショナーやリンス、ベビーオイルを髪全体に大量に塗り込み、油分を浮かせてから洗い流す」という独自のヘアケア手法を実践しています。油を油で溶かした後に、洗浄力の高い固形石鹸やスカルプシャンプーで二度洗いすることで、頭皮環境のトラブルを防いでいます。

【職人の神技】大相撲を支える「床山」の役割と知られざる階級・年収事情
力士の頭上に輝く美しい髷は、力士自身が結っているわけではありません。各大相撲部屋に所属し、力士の髪結いのみを一手に引き受ける専門職人「床山(とこやま)」が存在します。
床山は日本相撲協会の専属職員(定員約50名)であり、力士と同じく各相撲部屋に配属されて共同生活や巡業を共にします。力士が土俵で勝負に集中できるよう、毎朝の稽古後や本場所前の控え室で、スキ櫛や元結(もとゆい)と呼ばれる強靭な和紙の紐を使い、わずか数分から十数分で完璧な髷を結い上げます。
行司や呼出と同様に、床山にも日本相撲協会の規定に基づく明確な階級制度が存在します。等級は下位の「五等床山」から最高位の「特等床山」まで6段階に分かれており、昇進には厳密な経験年数と卓越した技術力が求められます。
相撲協会の給与規程や関係資料によると、床山の待遇体系は以下のようになっています。
- 五等〜三等床山(見習い〜若手):入門から勤続十数年未満。月給はおよそ16万〜25万円前後。主に幕下以下の力士の丁髷(ちょんまげ)を担当しながら技術を磨く下積み期間。
- 二等〜一等床山(中堅〜ベテラン):勤続20年〜30年前後。月給は30万〜45万円程度。十両や幕内力士の大銀杏を日常的に結い、相撲部屋の屋台骨を支える。
- 特等床山(最高峰の職人):勤続30年以上、原則50歳以上の熟練者から選ばれる最高位(定員2名程度)。月給は約40万〜60万円前後、賞与や手当を含めた推定年収は700万〜900万円水準に達する。横綱・大関の髷結いを専任で担当する。
床山が使用する道具は、薩摩つげで作られた手彫りの櫛(前櫛、中櫛、スキ櫛など)であり、職人自身が自分の手のひらに合わせて削り、調整した一生モノの道具です。力士の頭の形、毛量、髪質、生え癖は一人ひとり全く異なるため、指先の感覚だけで均等なテンションをかけ、乱れのない曲面を作り出す技術はまさに無形文化遺産級の職人技といえます。
【徹底比較】髷の種類と結うための条件|大銀杏と丁髷の違い
力士の髪型には、大きく分けて「丁髷(ちょんまげ)」と「大銀杏(おおいちょう)」の2種類が存在します。この2つには視覚的な形状の違いだけでなく、力士の階級や着用できる場面に関する厳格な規定が定められています。
入門したばかりの新弟子は、まず髪を伸ばすところからスタートします。髷を結うために必要な髪の毛を伸ばす期間は、最短でも約1年〜1年半が必要です。最初は頭頂部で小さく束ねるだけの「ちょこ髷」から始まり、肩口から鎖骨あたりまで伸びて初めて本格的な丁髷が結えるようになります。
| 項目 | 丁髷(ちょんまげ) | 大銀杏(おおいちょう) | 編集部の見解・評価 |
|---|---|---|---|
| 結える対象番付 | 序ノ口〜幕下の力士全般(十両以上の普段着時も含む) | 十両以上の関取(幕内・三役・大関・横綱) | 関取という「プロ中のプロ」の身分を視覚化する厳格な境界線。 |
| 形状の特徴 | 頭頂部で束ねた髪を折り返し、先端を棒状に整えたシンプルな髷 | 髷の先端を扇状に大きく広げ、銀杏の葉に見立てた華麗な形状 | 大銀杏を美しく広げるには高度な床山の技術と十分な毛量・長さが必要。 |
| 結う場面・シチュエーション | 日常の稽古、幕下以下の本場所取組、普段の外出時 | 本場所の土俵入りおよび取組、公式行事、巡業、結婚式などの正装時 | 幕下以下でも「弓取り力士」や「初切(しょっきり)」担当、引退相撲時は特例で結える。 |
| 必要な髪の長さ | 肩につく程度(約20cm〜25cm) | 肩甲骨付近に達する長さ(約30cm以上) | スピード出世した力士は髪の伸びが追いつかず、十両昇進後も丁髷で土俵に上がることがある。 |
昭和から令和に至るまで、学生相撲出身のエリート力士などが驚異的なスピードで十両へ昇進した場合、髪の長さが大銀杏に届かず「丁髷姿の関取」として本場所の土俵に上がる光景が時折見られます。これは相撲界の実力至上主義と伝統的な身体規律が交錯する象徴的なシーンとして、ファンの間でも大きな話題となります。

【噂の真相】髷が結えない・薄毛になった力士はどうする?相撲界の驚きの対処法
ネット上の掲示板やSNSで定期的に議論されるのが、「力士がハゲて髷が結えなくなったら即引退なのか?」という疑問です。激しい稽古による頭部への摩擦、強い力で髪を引っ張って結い続ける牽引性脱毛、そして遺伝や加齢など、力士の頭皮環境は極めて過酷です。
結論から述べると、「髪が薄くなったからといって即座に強制引退となるわけではないが、床山が工夫しても髷の体裁が保てなくなった場合は進退問題に直結する」というのが相撲界の真実です。
大相撲の規定上、力士は土俵に上がる際に髷を結っていることが義務付けられています。しかし、頭頂部が薄くなった力士に対しては、専属の床山が神業ともいえる技術を駆使してカバーします。
具体的には以下のような対処法が行われています。
- 側頭部・後頭部の髪を巧みに集める:頭頂部に十分な髪がない場合、サイドや襟足の毛を長めに伸ばし、スキ櫛と鬢付油を使って頭頂部へ集めて元結で縛る。
- 元結の位置を前後にずらす調整:生え際の後退や頭頂部の薄さに応じて、髷の結び目(元結を巻く位置)をミリ単位で調整し、地肌が目立たない自然なシルエットを形成する。
- 油の配合とコーミングの工夫:粘度の高い油を均一に馴染ませ、光の反射を抑えつつ毛束感を太く見せることで、豊かなボリューム感を演出する。
かつて「技のデパート」と呼ばれた元小結・舞の海や、元大関・栃乃洋など、土俵上で大活躍した力士の中にも頭頂部の薄毛に悩まされた力士は少なくありませんでした。しかし、熟練の床山の手にかかれば、激しい取組の間も崩れない見事な大銀杏が仕立て上げられていました。
ただし、頭頂部だけでなく側頭部や後頭部を含めた全体の毛量が著しく失われ、どうしても元結が止まらなくなってしまった場合には、相撲協会との協議や師匠との話し合いを経て引退を決断せざるを得ないケースも過去に存在します。力士にとって髪を守るヘアケアは、力士生命を直接左右する極めてシビアな健康管理の一環なのです。
【人生の節目】力士にとっての髪と断髪式の深い意味
力士にとって、髪は単なる体の一部を超えた「力士としての魂」そのものです。入門から毎日苦楽を共にし、頭頂に結い続けてきた髷にハサミを入れる儀式が「断髪式」です。
大相撲の引退相撲で行われる断髪式は、力士が土俵と別れを告げ、一人の一般人(あるいは親方として新たな人生)へと生まれ変わる通過儀礼です。後援会関係者、恩師、家族、そして同期やライバルの力士たちが順番にハサミを少しずつ入れ、最後に師匠である親方が大銀杏を完全に切り落とします。
土俵中央で髷を切り落とされた瞬間、力士の表情からは勝負師としての張り詰めた緊張感が消え、安堵と寂しさが入り混じった涙がこぼれる場面は、相撲ファンに最も強い感動を与える瞬間のひとつです。
髷を落とした力士は、その足で場内の特設控室や美容室へ向かい、洋服に合う一般的な現代のヘアスタイルへとカットされます。この劇的な変貌は、江戸時代から続く「髷を結う特別な存在」から「現代社会の市民」へと戻る精神的な境界線を意味しています。
【プロの結論】大相撲の髪文化から見出すべき美意識と伝統継承の教訓
大相撲における髷の文化は、合理性や効率性を最優先する現代社会において、極めて稀有な「身体規律の美学」を体現しています。
毎日の洗髪をあえて控え、天然の油で髪を育て、専属の職人が手作業で結い上げるプロセスは、一見すると非効率の極みに思えるかもしれません。しかし、その手間と時間をかける行為そのものが、土俵という神聖な空間に対する敬意であり、力士としての覚悟を日々確認する儀式となっています。
また、床山という裏方の存在は、日本古来の徒弟制度と卓越した職人技術が現代にも息づいている貴重な実例です。力士の頭皮や髪のコンディションを指先で把握し、薄毛や生え癖といった身体的個性を技術で包み込んで土俵へ送り出す関係性は、人と人との深い信頼に基づいた日本文化の粋といえます。

【力士 髪】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:力士の髷から香る鬢付油は一般人でも購入できますか?
A1:一般の方でも購入可能です。大相撲の本場所が開催される国技館の売店や、力士御用達の老舗油店(島田商店など)の通信販売、一部の相撲グッズ取扱店で練油やオーバル型の固形油が販売されています。甘く上品な和の香りとして、練り香水代わりに愛用するファンも少なくありません。
Q2:洗髪頻度が少ないと、頭皮の痒みやフケは出ないのですか?
A2:稽古直後に大量のぬるま湯で汗と土を念入りに洗い流す「湯洗い」を毎日徹底しているため、不潔になることはありません。また、木蝋などの天然成分を主とする良質な鬢付油は頭皮を保護・保湿する役割も果たしており、力士自身も専用のスカルプケアや定期的な二度洗いで頭皮環境を維持しています。
Q3:外国人出身力士の縮毛や天然パーマはどうやって結っているのですか?
A3:強い天然パーマやアフロに近い髪質を持つ力士の場合、スキ櫛が通らず髷を結うのが困難になることがあります。そのため、ストレートパーマを当てて髪を伸ばしやすくしたり、熱で伸ばしながら粘度の高い特製の鬢付油を多めに使用して髪を落ち着かせるなど、床山が個々の毛質に合わせた特別な工夫を凝らして結い上げています。
Q4:スピード出世で髪が足りない力士はどうやって本場所に出場しますか?
A4:十両に昇進しても髪の長さが大銀杏を結う基準に達していない力士は、通常の「丁髷」のまま十両の土俵に上がります。かつての遠藤や尊富士のように、目覚ましいスピードで番付を駆け上がった力士が見せる丁髷姿の取組は、大相撲ファンの間でも非常に貴重な名場面として親しまれています。
まとめ:日本伝統の美と力士を支える職人文化の奥深さ
力士の髪は、単なる頭髪の枠を超え、力士としての誇り、階級の証、そして相撲界の伝統そのものを映し出す鏡です。週に数回の計算された洗髪と独自のヘアケア、頭皮トラブルや薄毛を克服する床山の卓越した技術、そして十両昇進で初めて許される大銀杏の栄誉——そのすべてに、数百年にわたり受け継がれてきた知恵と美意識が詰まっています。
今後、大相撲の中継や本場所を観戦する際には、土俵上の激しい勝負だけでなく、力士たちの頭上で完璧に結い上げられた髷の造形や、館内に漂う鬢付油の香り、そしてそれを支える床山の手仕事にもぜひ注目してみてください。大相撲という文化の奥深さが、より一層鮮やかに見えてくるはずです。 (出典: 力士 髪(Yahoo!ニュース))